白衣の天然貴公子 第五話 ― 2009/05/11 10:01
「水兄、コレ何だ?」
「……百円均一ショップの眼鏡立てですが?」
「…じゃあさ、コレは?」
「ああ、それは先日彼女と一緒に買ったリモコンケースですよ。同じく百円均一ショップの…」
高級そうなテーブルに乗せられた二つの異色の物体を見て弟の優輝は怪訝な表情を浮かべた。
帝都大経済学部4年の優輝は4つ下の弟である。三人兄弟の二番目である水輝は去年まではアメリカの大学病院にいた。そこで日本人の男児の心臓移植手術を成功させ、今年の初めに帰国したのだ。
今彼が住んでいるマンションを見つけたのは弟の優輝で、契約などの手続きをしたのは兄の遙輝(ハルキ)である。
彼等…乾三兄弟…の父親は乾財閥の現頭首にして、日本屈指の大企業、乾グループの現総帥だ。
兄の遙輝は現在30歳。乾グループの薬品部門であるIN製薬が設立した薬科大の助教授をしている。
多忙な彼は契約後はここに来る事は無かったのだが、弟の優輝は自分がアルバイトをしている叔父の会社に近い為か頻繁にここに来る。
だが、数日前に彼が次兄のマンションに来た時にソレらは無かったのだ。
しかもその上…
「……水兄、煙草吸わねぇよな?」
「え?これは小物入れではないのですか?」
「へ?」
「だって、彼女が買っていたからてっきり……。ああ!そう言えば彼女、煙草を吸っていたような………」
「?????」
きょとんとした表情の弟にコーヒーカップを渡すと、水輝は惹き立て豆の香りを楽しむように一口含んだのだった。
************************
う~腹痛ぇ…
毎月やってくる「女の子の日」。翡翠はこの時期になると能力の制御が出来なくなる。
―――――きゃは♪乾先生に会っちゃったぁ~♪
そりゃ良かったね。
―――――今日の患者ムカツク~っ!!勝手にヒトのお尻に触んないでよっ!!
ご愁傷様でした。
―――――夜勤明けだから眠い~~~っ!!
はい。お疲れ様。
誰かとすれ違うたびに聞こえてくる心の声。それにいちいち心の中でコメントをつけながら目的地目指して歩く翡翠。
ピアスの制御機能が全く効かねえっ!!耳栓でもあればなんとかなるけど勤務中にんなモンつけらんねぇし。
…いや、つけててもこの時期は同じか…?あ~~うぜぇしかったりぃ……
院内にある薬局まで来ると、翡翠は扉を開けると同時に中にいる薬剤師に告げた。
「小児病棟の楠です。すみませ~ん、いつもの鎮痛剤下さ~い」
「……………」
いつもなら薬剤師の平岡が翡翠愛用のクスリを手渡してくれるのだが、今日に限って返事すら聞こえない。
「ったく…誰もいねえのかよ…。」
翡翠はそう呟きながら薬局に入って薬を物色し始めた。すると…
「いつもの…とはコレの事ですか?」
「!!!!!!」
いきなり彼女の目の前に伸びてきた長い腕。その手には翡翠が探していたブツがちゃんと握られていたのだ。
「い…乾先生何故ここに?」
「ちょっと太一くんに頼まれまして。それよりコレをお探しなのでは?」
「あ…はい。どうも」
思わぬところで苦手な人物に遭遇し、おずおずと両手を差し出しクスリを受取る翡翠。
しかし、目の前の若き小児科医は少し屈んで彼女の顔を覗き込み…
「おや?顔が真っ赤ですよ?」
「//////!!!!!!!!///////」
いつもなら退屈なクラッシックを聞いてると思って聞き流せる甘いテノールも、今日ばかりは脳内に響き渡る。
何しろ貧血と腹痛、その上情緒不安定というおまけまでついているのだ。
――――――――…頼むからこれ以上近寄らないでくれ!!じゃないとアンタの思考がこっちに流れて来ちまうんだよっ!!
そう思い一歩ずつ後退する翡翠。その時…
――――――そんなに潤んだ瞳で煽らないで下さい。変な気になっちゃうでしょう?
「へ?誰も煽ってなんか…ってか、普段天然なのになんでンナ台詞が出るんだよっ!!」
「?????」
―――――――月経というのは不思議ですね。普段は男勝りな女性をこんなにも色っぽくしてしまうんですから…
「//////なななな…何で知ってんだっ!!//////」
「???どうしました??」
―――――――出来ればこんな状態の貴方を他の男に見せたくない…
「たっ…頼むからこれ以上何も言うなぁ~~っ!!」
「え?僕は何も言って…って!待って下さい楠さん!!」
悲鳴をあげると同時に水輝が見せた一瞬の隙をついて、脱兎の如く逃げ出す翡翠。
薬局から飛び出すと、廊下を直走る。
ダメ!これ以上考えちゃ!!ダメ!これ以上アイツの思考を読んじゃ!!
あたしは恋なんて出来ないのっ!!姉さんを、珊瑚を守るって父さんと母さんに約束したあの日から……!!
あの日…それは楠夫妻が飛行機事故にあった日。
落下して行く飛行機から、彼等はありったけの思いを込めて翡翠に送ったのだ。
まさに炎上する寸前に。
『後を頼む!!』
そしてそれは翡翠が唯一両親から受け取った遺書となった。
すれ違う看護婦や医師、そして患者たちの表情が見えていないのか、翡翠は今にも聞こえてきそうな『彼』の思考を遮断しようと必死に自分に言い聞かせる。
―――――自分は一生をかけて姉と妹を守るのだ!!その為なら恋愛感情など持たない!
持ってはならない!………と。
『普段は強がっていてもやっぱり女だな。辛いんだろ?ほら、無理すんなって!』
――――――やめて!!あたしに構わないで!
『翡翠……俺と一緒に来てくれるよな?』
―――――ごめんなさい!それは出来ないのっ!!だってあたしは………!
身体が参っていると精神(こころ)まで弱くなる。去年翡翠が別れを告げた元恋人の千郷(ちさと)の言葉や姿を頭の中から追い出すように翡翠は頭をふると女子トイレに駆け込んだ。
「っっ……!!こんな女は………知らない…!」
洗面台の鏡に写る弱弱しい女性…本来の自分の姿を睨みつけると、彼女はギリっと下唇を噛んだのだった。
「……百円均一ショップの眼鏡立てですが?」
「…じゃあさ、コレは?」
「ああ、それは先日彼女と一緒に買ったリモコンケースですよ。同じく百円均一ショップの…」
高級そうなテーブルに乗せられた二つの異色の物体を見て弟の優輝は怪訝な表情を浮かべた。
帝都大経済学部4年の優輝は4つ下の弟である。三人兄弟の二番目である水輝は去年まではアメリカの大学病院にいた。そこで日本人の男児の心臓移植手術を成功させ、今年の初めに帰国したのだ。
今彼が住んでいるマンションを見つけたのは弟の優輝で、契約などの手続きをしたのは兄の遙輝(ハルキ)である。
彼等…乾三兄弟…の父親は乾財閥の現頭首にして、日本屈指の大企業、乾グループの現総帥だ。
兄の遙輝は現在30歳。乾グループの薬品部門であるIN製薬が設立した薬科大の助教授をしている。
多忙な彼は契約後はここに来る事は無かったのだが、弟の優輝は自分がアルバイトをしている叔父の会社に近い為か頻繁にここに来る。
だが、数日前に彼が次兄のマンションに来た時にソレらは無かったのだ。
しかもその上…
「……水兄、煙草吸わねぇよな?」
「え?これは小物入れではないのですか?」
「へ?」
「だって、彼女が買っていたからてっきり……。ああ!そう言えば彼女、煙草を吸っていたような………」
「?????」
きょとんとした表情の弟にコーヒーカップを渡すと、水輝は惹き立て豆の香りを楽しむように一口含んだのだった。
************************
う~腹痛ぇ…
毎月やってくる「女の子の日」。翡翠はこの時期になると能力の制御が出来なくなる。
―――――きゃは♪乾先生に会っちゃったぁ~♪
そりゃ良かったね。
―――――今日の患者ムカツク~っ!!勝手にヒトのお尻に触んないでよっ!!
ご愁傷様でした。
―――――夜勤明けだから眠い~~~っ!!
はい。お疲れ様。
誰かとすれ違うたびに聞こえてくる心の声。それにいちいち心の中でコメントをつけながら目的地目指して歩く翡翠。
ピアスの制御機能が全く効かねえっ!!耳栓でもあればなんとかなるけど勤務中にんなモンつけらんねぇし。
…いや、つけててもこの時期は同じか…?あ~~うぜぇしかったりぃ……
院内にある薬局まで来ると、翡翠は扉を開けると同時に中にいる薬剤師に告げた。
「小児病棟の楠です。すみませ~ん、いつもの鎮痛剤下さ~い」
「……………」
いつもなら薬剤師の平岡が翡翠愛用のクスリを手渡してくれるのだが、今日に限って返事すら聞こえない。
「ったく…誰もいねえのかよ…。」
翡翠はそう呟きながら薬局に入って薬を物色し始めた。すると…
「いつもの…とはコレの事ですか?」
「!!!!!!」
いきなり彼女の目の前に伸びてきた長い腕。その手には翡翠が探していたブツがちゃんと握られていたのだ。
「い…乾先生何故ここに?」
「ちょっと太一くんに頼まれまして。それよりコレをお探しなのでは?」
「あ…はい。どうも」
思わぬところで苦手な人物に遭遇し、おずおずと両手を差し出しクスリを受取る翡翠。
しかし、目の前の若き小児科医は少し屈んで彼女の顔を覗き込み…
「おや?顔が真っ赤ですよ?」
「//////!!!!!!!!///////」
いつもなら退屈なクラッシックを聞いてると思って聞き流せる甘いテノールも、今日ばかりは脳内に響き渡る。
何しろ貧血と腹痛、その上情緒不安定というおまけまでついているのだ。
――――――――…頼むからこれ以上近寄らないでくれ!!じゃないとアンタの思考がこっちに流れて来ちまうんだよっ!!
そう思い一歩ずつ後退する翡翠。その時…
――――――そんなに潤んだ瞳で煽らないで下さい。変な気になっちゃうでしょう?
「へ?誰も煽ってなんか…ってか、普段天然なのになんでンナ台詞が出るんだよっ!!」
「?????」
―――――――月経というのは不思議ですね。普段は男勝りな女性をこんなにも色っぽくしてしまうんですから…
「//////なななな…何で知ってんだっ!!//////」
「???どうしました??」
―――――――出来ればこんな状態の貴方を他の男に見せたくない…
「たっ…頼むからこれ以上何も言うなぁ~~っ!!」
「え?僕は何も言って…って!待って下さい楠さん!!」
悲鳴をあげると同時に水輝が見せた一瞬の隙をついて、脱兎の如く逃げ出す翡翠。
薬局から飛び出すと、廊下を直走る。
ダメ!これ以上考えちゃ!!ダメ!これ以上アイツの思考を読んじゃ!!
あたしは恋なんて出来ないのっ!!姉さんを、珊瑚を守るって父さんと母さんに約束したあの日から……!!
あの日…それは楠夫妻が飛行機事故にあった日。
落下して行く飛行機から、彼等はありったけの思いを込めて翡翠に送ったのだ。
まさに炎上する寸前に。
『後を頼む!!』
そしてそれは翡翠が唯一両親から受け取った遺書となった。
すれ違う看護婦や医師、そして患者たちの表情が見えていないのか、翡翠は今にも聞こえてきそうな『彼』の思考を遮断しようと必死に自分に言い聞かせる。
―――――自分は一生をかけて姉と妹を守るのだ!!その為なら恋愛感情など持たない!
持ってはならない!………と。
『普段は強がっていてもやっぱり女だな。辛いんだろ?ほら、無理すんなって!』
――――――やめて!!あたしに構わないで!
『翡翠……俺と一緒に来てくれるよな?』
―――――ごめんなさい!それは出来ないのっ!!だってあたしは………!
身体が参っていると精神(こころ)まで弱くなる。去年翡翠が別れを告げた元恋人の千郷(ちさと)の言葉や姿を頭の中から追い出すように翡翠は頭をふると女子トイレに駆け込んだ。
「っっ……!!こんな女は………知らない…!」
洗面台の鏡に写る弱弱しい女性…本来の自分の姿を睨みつけると、彼女はギリっと下唇を噛んだのだった。
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