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ウェディング・ベル 第一章 3高の女 第六話2010/08/05 18:14

「ゆっきーうさぎ」
「おや?そんなに目が赤い?」
「うん。まっかっか。ね、何かあったの?オレで良ければ相談のるよ?」

円らな瞳でそう言うのは真っ赤なブレザーの生徒。そう。芸能科の学生だ。
既にドラマでデビューしている彼は、生まれつきなのか頭痛持ちらしく今日も鎮痛剤を貰いに来た。
草食系男子俳優として売り出し中だけあって、見てるだけでも何だか心がほんわかしてくる。

「いやさ、前々から見たかったDVD見て号泣しちゃって………」
「それって洋画?邦画?それともアニメ?」
「ブブーーー。ドキュメントモノで余命半年の末期癌患者が綴った日記」
「うわっ!オレもそういうの弱いっ!!っつーか、何でソレ見たの?」
「ん……泣きたかったから……かな?」
「どして?」
「大人にはいろんな事情があるのさ。ほら、薬あげたでしょ?教室戻りなよ。でないと次の患者が入れないでしょ?」

きょとんと首を傾げるにゃんこ系少年。甘えんぼで可愛いったらないのさ。
う~ん、キミを見てるだけでささくれ立ったココロが癒されてくよ。
私は自分より低い位置にある茶色のフサフサの髪の毛をなでなですると、ここから出るよう促した。

ガラッ

「ゆっきーーー!ちょっと寝させて!……って、あれ?うさぎになってる」
「っぷ…キミも同じ事言うとはね」
「え?何ソレ?」
「オレもそう言ったからだよ。それじゃゆっきー、ばいばい」

彼はそう言って普通科の生徒とすれ違うようにして出て行った。

「そっか…志水もそう思ったんだ。で、ゆっきー徹夜でもしたの?」
「……徹夜……」
「俺さ、今めっちゃ嵌ってるゲームがあって、それで気がついたら日付が変わってたっつーか……もしかしてゆっきーも?」

科が違うとこうも解釈が違うのか。
徹夜でゲームねぇ……でもさっきの生徒にはDVDを見たって言っちゃったしなぁ…

「残念。DVDみて大泣きしたの。ドキュメントモノのね」
「ドキュメントモノ?それって本当にあった事とかだよね?」
「そ。余命半年の末期癌の患者の日記で、麻酔が切れた時の痛さとか……」
「わぁ~~俺パス!!っつーか、寝る!即行で寝るっ!いつものベッド借りるよ!」

私から逃げるようにして彼はベッドにダイブしたのだった。

*************************

「野々花、あの後そんなとこ行ったわけぇ~?」
「……無意識とは言え自分でも呆れてる…」

休日、私は学園島から出て香奈子と一緒にお酒を飲んでいる。
はっきり行ってあの男に会ってから昨日に至るまで、夢見が最悪で家でくたばっていたかったのだが、気分転換が必要だと思い重い腰を上げたのだ。
香奈は全て知っている。私とあのKY男がどこでどう付き合っていたのか。
件の店は初めて二人で飲みに行って、しかもその後近所のラブホで初めて奴と寝たっつー曰く有りの店なのだ。
付き合ってた時は数えるくらいしか行ってないのに、何故名前は勿論だが、道順なども覚えていたのだろう…

「しっかしムカつくわ……」
「え?」
「あんたほどの女があの腐れ外道の呪いでいまだに苦しんでるなんて……」

香奈子は私の事を良い女だと誤解している。同じ外科医なのにたまたま私が帝大卒ってだけで優秀な女医というレッテルを貼られてるのかもしれない。
私から言わせれば香奈の方がずっと良い女だ。身長が低くて手足や顔などのパーツもちっちゃくて私から見れば羨ましい事この上ないくらい。その上よく気がつくし面倒見も良い、料理は勿論家事も完璧な彼女は現在結婚前提で付き合っている男がいる。
にも拘らず私にこうして付き合ってくれてるのだ。
………ココロの広い彼氏に感謝だわ…

「で、そこで極上品をゲットしてちゃっかり食ったわけだ」
「ん………外見はね。中はカス」
「まぁねぇ、イケメンっつーのはそれなりにリスク高いもんだし?性格だって、ほら、ホストって結構俺様系が多いらしいからね……でもアッチは最高だったんでしょ?」
「………生まれて初めてイケタ…と思う」
「何で断定してないの?」
「……殆んど覚えてないから。でも、身体の疲れ具合等を考慮すると……ね」

いい加減酔っ払ってるなぁ……だって、いつもの私ならこんな下ネタペラペラと話せないから。

「…………今すぐ奴に関する記憶をデリートしたい…」
「よしよし」
「……男なんてクソ食らえだぁ~……」
「今日はとことん飲め!どうせ明日は休みだ。最終船出ちゃったんだろ?よし!特別にウチに泊めたげる!!」
「ありらと~~。かぁなぁ~あいひへる~~」

私の頭をなでる香奈子の手と声が優しい。
男運は恵まれなかったけど、友達には恵まれてるわよねぇ…私って。
ふわふわ……まるで雲の上にでもいるような感覚だった私。しかしそれはたった一人の不快な声で現実に戻されてしまった。

「……んなとこで飲むなっつーの」
「げっ…!」

突然耳元に囁いてきたのは間違いなく外面男!
恐る恐る顔をあげると、免疫の無い女なら一発で卒倒するであろう極上スマイルを浮かべた鶏冠井 竜耶が立っていたのだ。
ちらりと隣を伺うと………あ~ららら、口を埴輪のようにぽっかり開けた状態で固まっちゃってるよ……

「失礼ですが、野々花のお友達の方ですか?」

人の事呼び捨てにしないでよっ…!!!

「え……あ、はい。前の職場の同僚で……あの、貴方は…」
「くす……彼女の婚約者です」

いつそんなもんになったのよ!
ってか、私らお付き合いだってまだでしょーがっ!

「え?あっ…あのっ!婚約者って………」
「半分僕の要望ですけどね、実は先日彼女と見合いをしたんですよ。今はまだ返事待ちですが……とりあえず彼女は僕が連れて帰ります」
「でもっ…最終船が出ちゃったのでは……」
「僕のチャーター機がありますので」
「へ?」
「では、失礼します」

ひょい…

「ひゃっ……」

本当に身体が浮いたかと思ったら、突然飛び込んできたどこかで嗅いだ事のあるフレグランス。
………そうか。これが巷で言われている乙女の憧れ『お姫様抱っこ』ってヤツなのね……
ええ。初めてですとも!私のような大女は見た目だけで抱っこを敬遠されるものなのよ。
奴だって一度もしてくれなかったし、歴代の彼…っていっても片手で余るくらいなんだけどさ…だって、一度も私を持ち上げようとは思わなかった。

「おろへ~」
「……っせーな」
「わらひおもいれひょ?らからおろひなはい」
「……いいから黙っとけ」

不覚にも私はコイツの体温やフレグランスに緊張感が解れたのか、ぷっつりと意識を手放してしまったのだった。

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