白衣の天然貴公子 第四話 ― 2009/05/02 11:11
「マキちゃん…マキちゃん……」
「へへ…ドジっちゃった」
「オレ、オレ、すっごくシンパイしたんだぞ!」
「ごめんね正二くん」
正二のクラスメイトであるマキの手術は成功に終った。翌朝目が覚めた彼女を見て、翡翠はこっそり小児病棟へ行き、まだ寝ている正二を叩き起こしたのだ。
そして彼をストレッチャーに乗せて隠すようにしてマキのいる病室へと運んだ。
マキはストレッチャーから出てきたクラスメイトの顔を見て一瞬驚いたが、すぐに満面の笑みを浮かべた。
一方正二は包帯だらけになっているマキを見て悲しそうな表情を浮かべたが、彼女の笑顔を見てつられて笑顔を浮かべ、たたた…と小走りに彼女のベッドに駆け寄った。
「あいつら……まだガキのくせに…」
「大変微笑ましい光景ですね…」
苦笑しながら二人を見守る翡翠の頭上から低めのテノールが聞こえて来た。驚いて見上げるといつのまに来たのかマキの執刀医の水輝が立っていたのだ。
「あ…あの…乾先生これは……」
「僕は何も言ってませんよ?」
「へ?」
「それより、いいですねぇ彼等。将来恋人同士になるのでしょうか」
そう呟く水輝の瞳はとても優しげで、慈愛に満ちていた。夜勤明けでしかも数時間前に執刀したというのに疲れ一つ見せない若き小児科医。
そんな彼につられて翡翠も笑顔を浮かべながら…
「そうですね。正二ならあの子の優秀な騎士(ナイト)になれます」
「おや?楠さんは恋人にそのような素質を求めてるんですか?」
「へ?あ…いや、これは…その…ほっ…ほら!アイツは将来サファイアになるのが夢だって言ってたし…?」
水輝の突っ込みに思わずたじろぐ翡翠。
すると…
「くす……今はそういう事にしときましょうか…」
「はい?」
「なんでもありませんよ。それより、そろそろ引継ぎの準備をしませんとね?僕はちょっと産科病棟に用がありますので、先に行ってて下さい」
そう言うと水輝はくるりと背を向けスタスタと歩いて行ってしまった。
翡翠はと言えば、一瞬我を忘れていたのだがすぐに正気に戻り戻るのを嫌がる正二を説得して再び彼をストレッチャーに乗せたのだった。
*********************
「あの………」
「何でしょう?」
「どうして一緒に来てんですか?」
「くすくす…偶然じゃないでしょうか?ほら、駅もこっちの方角でしょう?」
夜勤明け、翡翠がお気に入りの店に嬉々として向かっていると、後からコツコツという足音が聞こえて来たのだ。
彼女がよく入り浸っている百円均一ショップは実は病院の近くにある。駅に行く途中にあるソレは都内にしてみたら大きめの店舗であり、品数も豊富なのだ。
……車通勤のヤツが何で歩いて駅に向かう必要があるんだ?
翡翠はそんな事を思いながら歩く速度を速めた。しかしもともとコンパスが違う為後にいたはずの彼も難なく彼女に追いつき何時の間にか隣を歩いていた。
朝、しかも所謂通勤通学時間に肩を並べてあるく上下デニムの一見少年と見紛えてしまう女と、寝ぼけ眼も一気に冷めてしまう程のイケメン。
病院から一歩でるとそこは帝都大の敷地であり、そこを横切らないと駅や店に行けないのだ。
……コイツのせいで周りの視線が痛ぇ…
興味深々と言った様子で水輝を見つめる女子大生の視線は自ずと彼の横に肩を並べている翡翠に行くわけで、彼女は俯きながらムキになって足を動かした。
競歩の選手並のスピードで目的地についた翡翠は、肩で息をしながら隣の男ににっこりと微笑みかける。
「それでは私はここで買い物がありますので…」
これで漸く変な視線から解放される…!!彼女は水輝にペコリと頭をさげ「お疲れ様でした」と一言付け加えて店に入ったのだが…
『誰あのヒト!』
『こんな時間に来るって事は…うふっ♪帝大病院のお医者様だったりして…』
『あんなイケメンに診察されたぁ~い!』
レジから聞こえて来た溜息と話し声に、嫌な予感がした翡翠はくるりと後を振り返り…
「!!!!!!」
「おや?偶然ですね。実は僕もここで買いたいモノがあったんですよ」
嘘付け!嘘付け!嘘付けぇ~~~っ!!!
ダン●ルの万年筆を使っているボンボンがここでいったい何を買うって言うんだよっ!!
しかし、水輝が翡翠と一緒に買い物をするのはその日だけでは終らなかったのだ。
と言うより、以後彼女とあがる時間が同じ日に、水輝は毎回翡翠と一緒に買い物をし、彼女を最寄駅まで送り届けるようになったのである。
「この店といい、中にある興味深い品物といい、楠さんのおかげでいろいろ知る事が出来ましたよ。本当にありがとうございます」
「……どういたしまして」
「アメリカではルームメイトと住んでいたので、実は一人暮らしというのは初めてなんですよ。だからまた退勤時間が重なったら教えて頂いてもいいですか?この店の事は勿論ですが、食材の買い物に適したお店なんかも出来れば是非…」
「……私でお役に立つことでしたら…」
上機嫌の水輝に顔を引き攣らせながらも笑顔で応える翡翠。しかし、水輝はそんな彼女の様子を見て一瞬だけニヤリとした。
……偶然も三度続けば必然…ってね?まだこんなのは小手調べだから覚悟して下さい。僕は必ずキミを捕まえてみせますよ。翡翠さん。
そう。水輝は普段は天然なのに仕事場では敏腕小児科医に、そして恋愛面となるとどんな標的でもゲットしてしまう凄腕の(狩人)ハンターへと変貌してしまうのだ。
そんな彼が胸の内で考えていた事を知らない翡翠は、これはあくまでもボランティア精神なのだ!何も知らないボンボンに庶民の知恵を教えているに過ぎないのだ!と自分に言い聞かせ渋々付き合うのだった。
生まれながらのテレパシスト(感応力保持者)にも拘らず、水輝の本心に気付かない翡翠。そんな彼女が彼の心の声を聞く日は、もうまもなくの事である。
「へへ…ドジっちゃった」
「オレ、オレ、すっごくシンパイしたんだぞ!」
「ごめんね正二くん」
正二のクラスメイトであるマキの手術は成功に終った。翌朝目が覚めた彼女を見て、翡翠はこっそり小児病棟へ行き、まだ寝ている正二を叩き起こしたのだ。
そして彼をストレッチャーに乗せて隠すようにしてマキのいる病室へと運んだ。
マキはストレッチャーから出てきたクラスメイトの顔を見て一瞬驚いたが、すぐに満面の笑みを浮かべた。
一方正二は包帯だらけになっているマキを見て悲しそうな表情を浮かべたが、彼女の笑顔を見てつられて笑顔を浮かべ、たたた…と小走りに彼女のベッドに駆け寄った。
「あいつら……まだガキのくせに…」
「大変微笑ましい光景ですね…」
苦笑しながら二人を見守る翡翠の頭上から低めのテノールが聞こえて来た。驚いて見上げるといつのまに来たのかマキの執刀医の水輝が立っていたのだ。
「あ…あの…乾先生これは……」
「僕は何も言ってませんよ?」
「へ?」
「それより、いいですねぇ彼等。将来恋人同士になるのでしょうか」
そう呟く水輝の瞳はとても優しげで、慈愛に満ちていた。夜勤明けでしかも数時間前に執刀したというのに疲れ一つ見せない若き小児科医。
そんな彼につられて翡翠も笑顔を浮かべながら…
「そうですね。正二ならあの子の優秀な騎士(ナイト)になれます」
「おや?楠さんは恋人にそのような素質を求めてるんですか?」
「へ?あ…いや、これは…その…ほっ…ほら!アイツは将来サファイアになるのが夢だって言ってたし…?」
水輝の突っ込みに思わずたじろぐ翡翠。
すると…
「くす……今はそういう事にしときましょうか…」
「はい?」
「なんでもありませんよ。それより、そろそろ引継ぎの準備をしませんとね?僕はちょっと産科病棟に用がありますので、先に行ってて下さい」
そう言うと水輝はくるりと背を向けスタスタと歩いて行ってしまった。
翡翠はと言えば、一瞬我を忘れていたのだがすぐに正気に戻り戻るのを嫌がる正二を説得して再び彼をストレッチャーに乗せたのだった。
*********************
「あの………」
「何でしょう?」
「どうして一緒に来てんですか?」
「くすくす…偶然じゃないでしょうか?ほら、駅もこっちの方角でしょう?」
夜勤明け、翡翠がお気に入りの店に嬉々として向かっていると、後からコツコツという足音が聞こえて来たのだ。
彼女がよく入り浸っている百円均一ショップは実は病院の近くにある。駅に行く途中にあるソレは都内にしてみたら大きめの店舗であり、品数も豊富なのだ。
……車通勤のヤツが何で歩いて駅に向かう必要があるんだ?
翡翠はそんな事を思いながら歩く速度を速めた。しかしもともとコンパスが違う為後にいたはずの彼も難なく彼女に追いつき何時の間にか隣を歩いていた。
朝、しかも所謂通勤通学時間に肩を並べてあるく上下デニムの一見少年と見紛えてしまう女と、寝ぼけ眼も一気に冷めてしまう程のイケメン。
病院から一歩でるとそこは帝都大の敷地であり、そこを横切らないと駅や店に行けないのだ。
……コイツのせいで周りの視線が痛ぇ…
興味深々と言った様子で水輝を見つめる女子大生の視線は自ずと彼の横に肩を並べている翡翠に行くわけで、彼女は俯きながらムキになって足を動かした。
競歩の選手並のスピードで目的地についた翡翠は、肩で息をしながら隣の男ににっこりと微笑みかける。
「それでは私はここで買い物がありますので…」
これで漸く変な視線から解放される…!!彼女は水輝にペコリと頭をさげ「お疲れ様でした」と一言付け加えて店に入ったのだが…
『誰あのヒト!』
『こんな時間に来るって事は…うふっ♪帝大病院のお医者様だったりして…』
『あんなイケメンに診察されたぁ~い!』
レジから聞こえて来た溜息と話し声に、嫌な予感がした翡翠はくるりと後を振り返り…
「!!!!!!」
「おや?偶然ですね。実は僕もここで買いたいモノがあったんですよ」
嘘付け!嘘付け!嘘付けぇ~~~っ!!!
ダン●ルの万年筆を使っているボンボンがここでいったい何を買うって言うんだよっ!!
しかし、水輝が翡翠と一緒に買い物をするのはその日だけでは終らなかったのだ。
と言うより、以後彼女とあがる時間が同じ日に、水輝は毎回翡翠と一緒に買い物をし、彼女を最寄駅まで送り届けるようになったのである。
「この店といい、中にある興味深い品物といい、楠さんのおかげでいろいろ知る事が出来ましたよ。本当にありがとうございます」
「……どういたしまして」
「アメリカではルームメイトと住んでいたので、実は一人暮らしというのは初めてなんですよ。だからまた退勤時間が重なったら教えて頂いてもいいですか?この店の事は勿論ですが、食材の買い物に適したお店なんかも出来れば是非…」
「……私でお役に立つことでしたら…」
上機嫌の水輝に顔を引き攣らせながらも笑顔で応える翡翠。しかし、水輝はそんな彼女の様子を見て一瞬だけニヤリとした。
……偶然も三度続けば必然…ってね?まだこんなのは小手調べだから覚悟して下さい。僕は必ずキミを捕まえてみせますよ。翡翠さん。
そう。水輝は普段は天然なのに仕事場では敏腕小児科医に、そして恋愛面となるとどんな標的でもゲットしてしまう凄腕の(狩人)ハンターへと変貌してしまうのだ。
そんな彼が胸の内で考えていた事を知らない翡翠は、これはあくまでもボランティア精神なのだ!何も知らないボンボンに庶民の知恵を教えているに過ぎないのだ!と自分に言い聞かせ渋々付き合うのだった。
生まれながらのテレパシスト(感応力保持者)にも拘らず、水輝の本心に気付かない翡翠。そんな彼女が彼の心の声を聞く日は、もうまもなくの事である。
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