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ラプンツェルのお家事情 番外編 ~彼等と彼女達の休日~2010/02/09 17:37

「………王手!」
「……行けば?」
「ちょっと待て!そこは『待った』って言うのが普通だろ?」
「ンな事言ったって、今回は玲人が勝つ番じゃねーの?だから、さっさとヤレっつってんだよ」

いかにもやる気の無い様子で将棋をうつ成人男性二人。
しかも、だだっ広いマンションのリビングのど真ん中に将棋版を置き、缶ビールと柿の種を脇に置いて…という状態である。
片方は欠伸をしており、片方は掛け時計の時間ばかりを気にしてるのだ。

「……おせーな…」
「女の買い物は無駄になげーんだよ……。それより、将棋も飽きたな…」
「腹へった。陸、何か作れよ」
「あ?何で俺がてめーに手料理食わせなきゃいけねーんだよ。ほれ、あたりめやるから齧ってろ」

そう言うと、陸こと東郷 陸は玲人こと皇 玲人にポイっとあたりめが入っている袋を投げて寄越した。
実は彼等は同じ高校で働いている社会人なのだ。養護教諭の陸と、音楽教師の玲人。
しかも二人には年が離れた可愛い恋人がいる。
それなのに、今日は休日にも拘らず愛しい彼女と一緒ではなく、かつてのクラスメイトであり現在同僚である男(ヤロー)同士で、時間をつぶすかの如く昼間っからビールを飲み、つまみを食べながらゲームをしているのである。
最初はオセロだった。それは学生時代から数学を得意としていた陸が圧勝した。次にブラックジャック。これは玲人が圧勝だった。その次が今やっている将棋である。

「くそっ……メールも来てねー!陽華のヤツ、何やってんだよ……!」

陸はそう言うと、携帯を絨毯の上に投げつけた。
いつもなら悪友のそう言った言動を見たら笑ってやるのだが、玲人も同じ状態だった為、とてもじゃないが笑えなかった。
皇 玲人26歳と東郷 陸26歳、我慢大会の半ばにして既にリタイヤしそうな気配である。
そしてその頃、二人の男が心底愛してやまない彼女達は………

「わぁ~~っ!これ可愛いかも!!」
「…あの、陽華さん?」
「ね、このシリーズのブラ、姫ちゃんにおススメだよぉ~」

ここはオーダーメイドの女性下着専門店である。
玲人と同棲する事によって食生活が改善されたのが原因か、それとも、長年抱えてきた不安要素が一気に片付いてしまったのが原因か、高校入学当初は標準よりも小柄で幼稚な体格だった姫歌は、気がつくと胸の辺りや腰周りに窮屈さを感じていたのだ。
また、身長も伸びた為制服のスカートが短くなってしまい、流石にそれは教師である彼氏から物言いが入った為、買い替えを余儀なくされた。…と言っても代金は全て玲人が出したのだが…

「それにしても姫ちゃん羨ましいなぁ~カップ数があがったなんて…」
「そうなんですよねぇ…。やっぱ先生と一緒に食事するようになって栄養が足りてるからかなぁ…」
「またまたぁ~。彼に愛されてるから…デショ?」
「そっ…そう言う陽華さんだって、東郷先生メロメロって感じですよ?」

なんて事を話しつつ、目と手はしっかりとレースをふんだんに使った下着を捉えている訳で…。

「でも、今日本当に良かったんですか?東郷先生と何か約束があったんじゃ…」
「いいのいいの!だって、折角姫ちゃんと一緒にお買い物に来たんだもん!」
「私、実はこういうお店って初めてなんです!今までは通販でしか買えなかったから…。それに、組の人じゃなく、お友達とのお買い物も初めてで……嬉しいな…って…」

普段ちょっとした買い物ですらも姫歌にお供をつけさせる玲人。しかし、今日は彼女の買い物目的が――――な為、皇組の者達も姫歌のお供に来る事が出来なかったのだ。
それでも玲人はついて来ようとしたのだが、陽華に阻止された。
……おかげで女同士でショッピングを楽しめる訳なのだが…

「むふふ~~、そんな可愛い事言う娘にはプレゼントしちゃう!」
「え?そっ…そんな!悪いですよ」
「気にしない気にしない!丁度ギャラが入ったところなんだ。だから気に入ったヤツを一組買ってあげる!」
「ひ…一組~?」
「だって、ブラとショーツは揃えるのが当たり前でしょう?そうだ!姫ちゃん、良い機会だからちゃんとサイズを測って貰ったら?」

陽華はそう言うと、慣れた様子で近くにいる店員に声をかけた。

*****************

「今お茶入れますね~。珈琲、紅茶、どちらが良いですか?」
「紅茶!」
「それじゃあ今日はアールグレイにしましょうか…」

陽華をリビングのソファーに案内すると、姫歌は寝室に行って今日買った下着をしまうとキッチンに行った。
買い物帰り、どこかでお茶しないか…という陽華の提案に、姫歌はニッコリ笑って自分のマンションで…と応えたのだ。
玲人の引越しの手伝い以来何度か来ている彼女のマンションを陽華は結構気に入っていた。
家具や壁紙の趣味が自分と似ているというのがそれの大きな原因であろう。
しばらくすると、姫歌がトレイにティーポットとマグカップを乗せて持ってきた。
実は信楽や有田が買い揃えたウェッジウッドのティーセットがあるのだが、いまだ庶民感覚が抜けてない姫歌にとってはそれらは高級過ぎて使う事が出来ないのである。
そして、陽華も売れっ子モデルの割には感覚が姫歌と似ており、マグカップを愛用するタイプであった。
こうして100均のティーポットと、無印良品のマグカップという組み合わせによる少女達の優雅なティータイムが始まった。

「ん…おいし…。姫歌ちゃんってお茶入れるのも上手だよね…」
「へへ…ありがとうございます」

両手でマグカップを持ち、本当に嬉しそうに飲む陽華を見て、思わず照れる姫歌。

……東郷先生は、こういう陽華さんにも惚れてるんだろうなぁ…

姫歌がそう思っていた時、陽華の視線がリビングのとある本棚の上で止った。

「ねぇ、姫ちゃん、アレ何?」
「アレ…って!しまったっ!!隠すの忘れてたぁ~~っ!」

慌てて陽華が指している雑誌を取り、自分の背後に隠そうとする姫歌。
しかし…

「ど・う・し・てお姉さんに隠すのかな~?」
「だ…だって!絶対陽華さんコレ見たら気分害すると思います」
「そんなの見てみなきゃわからないじゃん」
「でも…」
「大丈夫!万が一頭に来ても絶対に姫歌ちゃんに文句言ったりしないから!!それに、あたしと姫ちゃんの仲なのに隠し事するの?」
「うっ……」
「ね?ちょっとだけでいいから!」

もともと押しに弱い姫歌。自分が姉のように信頼している陽華に言われ、おずおずと目的の雑誌を差し出した。

「…………………………」
「あのですね、実はコレ、ウチの部員が漫画同好会の人達から貰った同人誌でして…。最初は先輩方が読んで順に一人一人まわして行って……それで私が最後なんですけど…その……あの……わっ…私が入っている合唱部の顧問って先生じゃないですか!
だから、彼とよく一緒にいるからって事で…その…あの……」

シドロモドロに説明する姫歌。しかし、陽華は無言で読書に没頭しており…

「や…やっぱ東郷先生の恋人である陽華さんからしてみたら、喩え、その…相手が渡会先生でも不快になります…よね?」
「…………いい」
「へ?」
「可愛いっ!この陸ってばさいこー!!」

姫歌は不安になって陽華の顔を覗きこんだのだが、陽華は目をハート型にして食い入るように漫画を見つめていたのだ。

「あっ…あの、私もその方が描かれた東郷先生、とっても可愛いって思いました!」
「そうでしょそうでしょ?現実にはこんな言動ありえないんだけどさ、めっちゃ可愛いよねぇ~?それに、玲人さんも凄くイケメンに描かれてるし…?」
「はい!実際にはこんなに身長差や体格差は無いんですけど、こうしてデフォルメ?…されてると、こんなカップルもありかなぁ~って(笑)」

自分達の彼氏がBL系同人誌でカップリングされているにも拘らず、絵やストーリー、そして台詞を見て盛り上がる彼女達。

「あはははは……『レイ…僕実は…』なんて絶対言わないよぉ~っ!アイツは普段自分の事『俺』って言ってるんだから!!
それに、こんなシナなんて作らないってば!…くくくく」
「あははは…先生もそうですよ~!その直後の台詞…『リク…頼むから泣き止んで?』なんて絶対有り得ないですっ!!」
「そうだよね~?次のページもさ、『え?レイ…今何て?』じゃなくて『あ?てめー今なんんつった?』だよね~」
「ええ!ええ!『くす…仕方ないなぁ…』じゃなくて『冗談じゃねーぞ』ですよ!」

リアクション付きでお互いの彼氏の口真似をしつつ漫画の台詞に突っ込みを入れる二人。
しかし、彼女達はお互いの携帯に数え切れない程の着信履歴やメールが届いている事にまだ気付かないでいたのだ。
そしてその頃陸のマンションでは…

「……それじゃ頼んだぞ。5分だ!!それ以上は待てねーからな?……(プツ)なぁ陸、有田が車をまわすから俺ンとこで飲みなおすか?」
「お前のマンションでか?」
「これだけメール送っても携帯かけても出ねぇって事はアイツら晩メシも一緒に食うつもりじゃね?」
「そうだな。ったく、陽華のヤツこの俺をこんなにほったらかしにしやがって…あとで覚えてろよ」
「陸……お前言動がガキくせーぞ?」
「るせー!お前だって同じ心境だろうが!」

そして5分きっかり迎えに来たボディーガードの運転する車で玲人のマンションに向かったのだった。

「若、東郷さんの御帰りの際はまた連絡下さい」
「ん…ごくろうだったな」

駐車場で有田と別れると、専用エレベーターで最上階へと向かう二人。
玲人は、彼女との初めての同棲生活の事を思い出し、頬の筋肉が緩んだ。

「……何ニヤニヤしてんだ?」
「別に?それよりもう着くぞ?」

そして最上階に着き、再びカードキーで開けて中に入る。
と、その時…

『きゃあ~~~っ!』
『だっ…駄目ぇ~~っ!』

彼女達の悲鳴らしきモノが聞こえて来たのだ。思わず顔を見合わせる二人。

「何だ?」
「…リビングから聞こえて来たな?」

玄関のドアを乱暴に閉め、靴をポイポイと脱いで長いコンパスを有効に動かしながら恐るべきスピードでリビングに向かう玲人と陸。

バアンッ

「姫歌!」
「陽華!」

乱暴に扉を開き、お互いの彼女の名前を叫んだのだが…

「あはははは!……このミニミニ可愛いすぎ~っ!」
「あははは!…ほっ…本人とのギャップを考えると、正視してられませ……くっくっくっく」
「っくっくっく…だよねぇ~っ!今本人が目の前にいたら…」
「くっくっくっく…私笑い死にしそうですぅ~~……くっくっく」

リビングの絨毯に蹲っているパステルオレンジとライトグリーンの塊。
彼等が好む色のワンピースを着て丸くなり、震えているのは紛れもなく自分達の彼女であり…

「おい」
「あいつ等どうなってんだ?」

一気に酔いが覚める玲人と陸。
しかし、陽華と姫歌は自分達の彼氏が来ている事に気付かず、両目から涙を流しながら絨毯をドンドンっと叩いて爆笑している。

「あは…あはははは…くるし~~っ!」
「そ…そうですね…あははは…お腹痛いれすぅ~~っ!くっくっくっく」
「ここ!!このページのさ、このシチュ……っくっくっく」
「そうそう!絶対にありえなぁ~い!…っくっくっく」

ここで漸く彼女達がある雑誌を指差して笑っている事に気付く玲人。

ひょい

「「あっ!!」」

突然目の前から雑誌が消えて正気に戻る陽華と姫歌。
しかも、ソレは彼女達が出来れば見せたくない相手の手の中にあり…

「れっ…レイさんっ!!いつ帰ったんですか!?」
「れれれれ玲人さん、お邪魔してます!あの…ソレは…」

顔面蒼白になり慌て出す二人に対し、玲人は中身をパラパラと読むと、隣の悪友にも渡し…

「「駄目ぇ~~っ!!」」

思わず陸に縋りつく陽華と姫歌。玲人は携帯を取り出し誰かに何かを指示すると、べりっと姫歌を引っぺがした。

「こら!ドサクサに紛れて誰に抱きついてんだ?」
「だっ…だって!!」

猫のように玲人に首根っこを掴まれつつもジタバタと暴れる姫歌。
そして陽華はいまだに陸から件の雑誌を取り上げようと必死になっている。

「ちょっ!陸!!ソレ駄目だって!」
「…………………」

無言で読み続ける陸に、玲人が冷めた口調で話しかけた。

「陸、じきに有田が下に来るから」
「ああ。手間かけさせて悪いな玲人。それじゃ陽華帰るぞ」
「え?」
「……このくだらねー雑誌にどれだけお前が洗脳されたか確認しねーとな?」

そう言うと、陸は雑誌を玲人に向かってポンと投げた。
そして玲人がそれを受け取ったのを確認すると、陸は戸惑う陽華の腰に手を置き、彼女をエスコートするようにしてリビングから出て行ったのだ。
そして残されたのは、今にも切れるのでは…という程こめかみに血管が浮き上がっている男と、ガマの如く脂汗を流している少女であり…

「姫歌…?」
「はっ…あはっ…やだなぁ先生、そんなモノいつまで持ってるんです?」
「俺は今は教師じゃねーっつったろ?ったく、いつになったら俺の事名前で呼ぶんだ?
いや、それより、俺からの電話とメールを全部無視した理由が、まさかコレっつーんじゃねーだろーな?」
「え?電話?メール?」

何の事?というように首を傾げる姫歌。何時もなら彼女のそんな可愛らしい仕草に思わず抱きしめる玲人なのだが、今日は勝手が違った。
件の雑誌を棚の上に置くとドスドスドスと音を立ててリビングの隅に行き、そこに置いてあった彼女のカバンをひっくり返して絨毯の上に中身をばら撒いた。
そうして出てきた携帯を掴むと姫歌に突きつけたのだ。
玲人のあまりの迫力にただただ彼の行動を見守るしかなかった姫歌は、ロボットのような動きで彼の手から自分の携帯を受取り…

「ひぃぃっ!!嘘っ!いつの間に~~~?」

まるでストーカーかと思いたくなるほど数分おきにある着信履歴。メールにいたっては一言だけだが数秒ごとの感覚で届いていたのだ。
最初だけ『買い物は済んだか?』などまともな文章だったが、最後の方までくると『テメぇ』だの『コロス』だの危ないメールと化している。
如何に目の前の男の機嫌が悪いかを実感させられた姫歌は、携帯をもったままブルブル震え出した。

「今晩は久しぶりにアレをやるぞ…」
「ええ~っ!」
「嫌ならあのうぜぇ漫画の中のヤツの台詞を一字一句間違わずに言わせる」
「それもやです!!」
「るせー。お前に拒否権はねーんだよ。とりあえず『オセロ』に決定だな。
今日の戦利品を確認がてら真っ白な舞台の上でとくと言い訳を聞かせて貰おうじゃねーか…。な、姫歌?」

思わずニヤリという擬音が聞こえてきそうな恋人の微笑みに、姫歌は心の中で十字を切った。
ベッドの上で先ほど陽華と笑い転げた創作漫画の中の陸の台詞を言うのは嫌だけど、コトの最中に『デズデモーナ』になって『オセロ』になりきっている玲人に言い訳するのはもっと嫌だ。
しかし、滅多にない休日、しかも半日以上ほったらかしにしたのだからそれも仕方ないし、これ以上精神的にきつい罰ゲームを強いられるのはもっと辛い。

「……明日、朝練習休んでいいですか?」
「俺が満足出来たらな?まぁ今晩の徹夜は覚悟しとくんだな。何なら学校を休んでもいいぞ?」

「それが教師である貴方の言う事ですかっ!」という台詞を心の中だけで叫ぶと、姫歌は大きな溜息を着きつつリビングにばら撒かれたバッグの中身を仕舞い始めたのだった。

***********

俺様彼氏ズVS天然彼女ズ……のつもりで創作しましたが…どうでしょうか?

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